はじめに
「心霊玉手匣4」のレビューです。ええと、なんといったら良いのか。この結末はちょっと予想外でした。ちなみに今回初めて岩澤がカメラの前に姿を現します。
記憶を失う
概要
浜辺で唐突にモロちゃんに「大好きだ!」とか抜かして告る唐沢。モロちゃんは「ダメだよ」「もう1人の私が先に進めって言ってる」とかわけわかんないことを言ってると「カット!」という岩澤の声。
は?なんで自主映画みたいなの撮ってるの?と思う間も無くタイトルコール。
なんか荒れ果てた浜辺でデートするカップルの映像。すると、浜でぶっ倒れて錯乱状態の男性を発見する。この男性が苦しみ抜いて気絶してしまった姿に、男性の体に黒いシミのようなものが広がり、人の目のようなものが浮かび上がってすぐに消えてしまう。
この男性、萱沼さんは上流の川辺でバードウオッチングをしていたのだが、鳥を撮影してからの記憶がなく、どうしてこの浜にいたのかがわからないと言う。彼は病院に担ぎ込まれたが「一過性全健忘症」ではないかと診断された。通常は24時間以内に記憶は回復するらしいのだが、萱沼さんの川辺から記憶は戻らなかった。それ以来、自分が自分ではないような感覚があり、なんと言っているのかはわからないが、何者かの声が時々聞こえると言う。あの映像にも入っていた、声のようなものに雰囲気が似ているとも語る。
萱沼さんは記憶を失った上流の川辺から、発見された海辺までの50kmあまりの行程を、徒歩で辿っていけば、紛失したビデオカメラが見つかるかもしれないし、自分の身に何が起こったか分かるかもしれないと考え、チーム玉手匣のスタッフにその同行を依頼する。
場面は切り替わり、萱沼さんがバードウオッチングをしていた川辺のシーンとなる。そこに同行するのはカメラの岩澤ただ1人。そう、上園たちは徒歩で50kmというハードな行程に尻込みしてしまったのである。
感想
50kmはきついすよね。しかもただの道じゃないし、上園たちが尻込みするのはわかります。
心霊映像はもはや怖さを楽しむレベルのものではありません。この作品はそんなもの期待してはいけないんだ、ということを改めて認識させられます。
川を下る
概要
上園たちが同行していないことに少しがっかりしたような表情を浮かべる萱沼さんは、とぼとぼと歩き出す。計算によれば夜明け前には海辺に辿り着くはず。岩澤は携帯食料(カップ麺)を用意し万全の体制だ。岩澤との会話で、萱沼さんがこの川を訪れたのは15年ぶりくらいで、学生時代にこの川で自主映画を撮っていたことがわかる。それは「ノッキン・オン・ヘブンズ・ドア」に影響されて、この川から海に至るロードムービーだったこと、この映画が未完成であること、主演の女性(押野妙子さん)がおかしくなってしまい、後に亡くなってしまった言うことを語る。
この自主映画「沙織と幸子と…」は、病院を抜け出した主人公の沙織が、友人の幸子とともに川を下り、海に辿り着くと言うストーリー。物語の後半で友人の幸子は沙織が作りだした幻であり、主人公は同一性乖離障害であったことが判明する。
ここで、この映画の1シーンが紹介される。川辺を一心不乱に走る沙織(押野さん)、何者かに追いかけられているようにも感じる。彼女は不意に立ち止まり、カメラに向かって何やら叫んでいるようだ。すると、何度も赤く光が入ったような感光現象が発生し、部屋の中にいる女性(おそらく押野さん)の姿が一瞬差し込まれ、彼女の首が胴体付近に移動してしまったような異常な状態になってしまう。それはすぐに戻るが、彼女は跪いて地面に何かを探すような仕草をしたかと思うと、それを川に投げ入れる。その後気を失ってしまい、倒れこむ場面で映像は終わる。
押野さんの死因に関しては萱沼さんもよく分からないそうで、当時すぐに亡くなったと言うわけではなさそうだ。
感想
小説ではなく映画なんだから、幸子が実は沙織が作り出した幻とか、見た人はいきなり序盤で察しがついちゃうんじゃないの?とか突っ込んじゃいけないんですかね。
岩澤が「(カップラーメンとか)あんまり食べないっすね」と、萱沼さんに言われて気まずくなってしまうのがおかしいですね。
この映画は誰かを救う
概要
その頃チーム玉手匣事務所では上園と唐沢がパソコンで何やら調査しているようであった。そこに霊感女子高生モロちゃんこと両角奈緒が入ってくる。岩澤がいないことに気がつく彼女だが最初は気にとめる様子もない。だが椅子に座って落ち着くと「嫌な予感がする」と何かを感じ取っているようだ。
岩澤たちは川辺を歩き続けるが特に収穫はない。日も落ちてきたため持参したカップラーメンで夕食をとることに。焚き火を囲み語り合う2人。ちょうどこの辺りであの映画を撮影していたそうである。主演の押野さんが、チーム玉手匣の両角に似て霊感があったと語る。撮影時にもこの川はよくない場所であると訴えていたそうである。撮影時に彼女に異常が訪れた件から大学もやめてしまい、連絡も取れなくなってしまったそうだ。最近になって彼女は廃墟で首を吊り自殺してしまったことがわかったと言う。
彼女の異変にも自分にいくばくかの責任を感じているようで、だからこの川に来たのかもしれないと萱沼さんは語った。その完成できなかった映画を完成させれば彼女の供養にもなる、と勧める岩澤。両角を主演にすれば良いではないか、きっと演ってくれると語る岩澤に萱沼さんは「だと良いのだが」と語る。
場面は変わり、宿泊施設か何かで若者が歓談しているシーンになる。萱沼さん達が映画のロケ前日に撮影したものらしい。しばらくはなんと言うこともない会話をしているが、話題が911テロ事件の話になると押野さんは撮影している萱沼さんに向かって予言ともつかない意味不明の言葉を呟く。
「この映画はいつか誰かを救うよ」
「ただ、萱沼君には悪いことしたと思ってる」
「私がちゃんと導くから」
すると、背後の白い壁から2体の人の顔が盛り上がるように現れる。口を開け何かを訴えているようにも見える。萱沼さんは驚きカメラを伏せてしまう。だが再びカメラが壁を向くとそこにはもう何もない。
場面は岩澤と萱沼さんの会話に戻る。自主映画を完成させたらどうかとの提案に対し、「だったら岩澤さんも、て…」。「手伝ってくださいよ」とでも言い掛けたその時、萱沼さんの様子が突然おかしくなる。突然頭を抱え、もんどり打って苦しみだしたのだ。そして、周囲のどこからともなく不可解で機械的な音声が聞こえてくる。
「あの…女は…俺たちが…殺した」
そして苦しみながらも萱沼さんは荷物を背負って歩きだしてしまう。「行かないと」、「行くんだよ!」、岩澤の制止も聞かず、彼はひたすら歩き続ける。
感想
2人の間にちょっとした友情が生まれて、「俺好きっすよカップラーメン」とか、気を使われているのがおかしいですね。また、押野さんのことを「妙ちゃん」とか言ってて、萱沼さんがなんだか彼女に気があったような感じも伺えます。
萱沼さんを追いかけるのに火の始末をしているシーンで、「アチッ」とか言ってる岩澤が「もうなんなんだよ毎回」とかぼやいているのも笑いました。
あの山に繋がる
概要
場面はチーム玉手匣事務所。「心霊玉手箱3」のエピローグシーンの両角の本名が上園に暴露され、彼女が怒って退出し、唐沢が例の川の調査結果を報告する場面となって、前作とシームレスにつながる。
唐沢の調査により、あの川は「毎年数人の人が突然死を遂げているいわくつきの場所」「2000年くらいからは死者が出ていなかった」「だが今年に入って既に4人も亡くなっている」ことが判る。川の名は「居合川」、だが昔は「位牌川」という縁起でもない名前で、付近の人々にとっては忌み地として恐れられていたそうである。さらに唐沢が気になることとしてあげた事実は、「心霊玉手匣2」で行方不明になってしまった押切さんの失踪現場がこの川の源流なのだそうである。
そんな折、事務所に電話がかかってくる。それは萱沼さんがおかしくなってしまったことで、応援を要請する岩澤からのものであった。上園は急遽、萱沼さんが目指しているであろう、例の海岸に向かうことにし、事務所を飛び出す。エレベーターの扉を開けると、モロちゃんに担がれた念写能力者・岡崎律の姿があった。そして彼の能力により、唐沢の手元のハンディには岩澤と萱沼さんの姿が念写される。
岡崎:早く行かないとやばいっすよ
上園:なにいってんねんこいつ
岡崎:2人が殺される
上園:わかったはよ行こ、話は車で聞くから
両角:私は帰る
上園:はぁ何言ってんねん、お父さんには連絡しておくから
両角:私は帰る!!
と、エレベーター内は阿鼻叫喚の地獄絵図(笑)であった。海へと向かう車に乗る頃には岡崎さんの頭痛は収まっており、自信なさげに車中で自らの能力を説明する岡崎さんに対して、上園達は懐疑的な態度を崩さなかった。
そこで再度岡崎さんにビジョンが入り込む。頭を抱え苦しむ彼を見て何か感じたのか、両角は海ではなく、左折して川に向かうように訴えた。上園は不満げではあったが彼女の指示に従い、川に向かう方向にハンドルを切った。
あいかわらず一心不乱に川辺を進む萱沼さんは、岩澤が呼びかけても構うことなしに歩き続け、そして「俺なんだか分かって来ました」という言葉とともに倒れこみ、さらに苦しげに暴れまくる。「もう俺じゃないです」そんなセリフを叫んだかと思うと静かに向き直って立ちすくむ。何かを感じた岩澤は萱沼さんに思わず叫んでしまう。
「お前誰だ!」
萱沼さんは間髪入れずいきなり岩澤に掴みかかるのであった。
場面は上園達に変わる。停車した車から飛び出した両角はかつての萱沼さんの映画の主人公・押野さんの姿を再現するかのごとく、川辺に向かって走り出す。ここからは、岩澤と格闘する萱沼さんと上園達のシーンが同時進行しているように互いに切り替わる演出となる。
両角は川のすぐそばで跪いてしまい、唸るような、呪文のような声を上げ続ける。何かが乗り移ってしまったのだろうか。心配して声をかける上園達だが、岡崎さんを頭痛が襲い、唐沢のカメラにはまさに今、わちゃわちゃしている彼らの映像が念写されていた。そう、悪霊は今ここにいて彼らを見ているのだ。「俺たち狙われています!」岡崎さんがそう叫ぶと、川面から無数の手が伸びて来て、その一つはうにょ〜んと伸びて上園の足を掴み、今にも川に引きずり込もうとしている。必死にそれを阻止する岡崎さん。
そこでかつての映画の中での押野さんがカメラに向かって叫ぶシーン。
「は・や・く・お・ま・も・り・を・な・げ・て」
両角の例のあのお守りがなぜか宙に浮き、ひとりでに川に飛んで言ってしまう。何かの叫び声とともに上園の足をつかんでいた手は姿を消し、あたりに静寂が訪れる。岩澤の首を絞めていた萱沼さんもその手を緩め、おとなしくなってしまった。
感想
九死に一生を得た上園が「娘にも会えなくなるとこだったやんけ」と吐き捨てる場面で、「今も会えてないじゃないですか」というツッコミを入れる唐沢の毒舌が冴えまくって笑います。
川面からうにょ〜んと伸びて上園の足を掴む長〜い腕の造形は、高校の文化祭のお化け屋敷レベルで、失笑を禁じ得ませんが、臨場感あふれる演出のおかげか、さほど気にならないのが不思議です。萱沼さんに首を絞められるシーンで、このシリーズで初めて岩澤の姿を拝むことができます。
カメラは残された
概要
両角は「多分この川には長い間悪霊が棲み着いていたのだと思う、それを誰かが封じ込めていた。だが、最近その人物が死んでしまったため、再び悪霊が活動を始めたようだ」と語った。これは唐沢の「この川で2000年ごろから出なくなった死者が最近になってまた出始めた」という調査結果と符合する。今まで吉野さんが悪霊を封じ込めていたのであろうか。「萱沼もその悪霊に呼び寄せられていたのだろう」とも語る。
九死に一生を得た上園はその手に壊れたビデオカメラを持っていた。この辺りに落ちていたのを拾ったという。これは萱沼さんが落としたものであることが後に判明する。中のテープは再生可能であった。ここでその映像が紹介される。
鳥を撮影している萱沼さん。口笛で鳥寄せをしていると突然どこからともなく不気味な音が周りに響き渡る。それは「心霊玉手匣 其の2」で鳴り響いていた、あの「終末の音」のようであった。音に驚き周りをカメラで見渡していると、こちらに向かう不気味な黒い人影が近づいてくる。萱沼さんはカメラを地面に向け伏せてしまうが、何があったという様子もなくよろよろと歩き出す。そして川の中に足を踏み入れ、カメラごと水没してしまう。彼の手から離れたカメラは水の中で揺らめく彼の姿を捉えていた。そのままカメラとともに急流に流されてしまっているようである。
下流で打ち上げられた萱沼さんは仰向けに寝そべり微動だにせず、どうやら息をしていないように見える。カメラは偶然その姿を捉えているのだが、水没してしまったカメラは不調のようで、映像はノイズまみれである。すると、2体の黒い人影が彼の近くに現れ、消えてしまう。彼は息を吹き返し、立ち上げってどこかへ去ってしまった。
両角は「こんなことは言いたくはないが」と前置きして、「萱沼はもう死んでいる」「あいつの中に悪霊がいて、それで生き延びている」「実際にはもう、とり殺されている」。そのようなあまりにも理不尽な見解に対して、「なんとかならないのか」と声を荒げる上園や唐沢に対し、「ごめん」というしかない両角であった。
感想
萱沼さんの映画の最中に、押野さんがチーム玉手匣のピンチを予知し、時空を超えてモロちゃんのお守りを川に投げて助けた。それと同時に川の悪霊も封印、しかしながら15年にも及ぶ悪霊との戦いにより、入退院を繰り返したものの、ついに力尽き、廃墟の講堂で自殺に至った…という解釈で良いのでしょうか。
当然、前巻で岡崎さんに入り込んだビジョンは押野さんのもので、あの映像の中にも萱沼さんたちが仲間で歓談する様子も、一瞬差し込まれていました。それにしてもあんな不気味なビジョンで岡崎さんを怖がらせなくとも良いではないかとも思いましたが。
すごいな押野さん、スーパーヒロインじゃん。でも15年もの間、悪霊を鎮めてその川の平和を守り続けていたのに誰からも感謝されることがなく、ついに悪霊に負けて自殺してしまうとか、あまりにも報われなくて悲しい。前巻でモロちゃんが放った「辛いこともあるが良いこともある(大切な人を守れる)」というセリフが胸に沁みてきます。
海を目指す
概要
もう夜が開け始めていた。正気を取り戻したかに見えた萱沼さんであったが口から何か黒い靄のようなものを吐き出し咳き込む。「今のはなんだ?」そう叫ぶ岩澤を尻目に彼は立ち上がり、再び歩き出す。「もういいだろう!」そう叫んで止めようとする岩澤の手を振りほどき、「行かせてくれ!」と叫んで海を目指す萱沼さん。「妙ちゃん」そう呟く彼の目線の先には手を広げ萱沼さんを導くように立つ女性の姿が一瞬浮かび上がる。
「私がちゃんと導くから」
あの映像の押野さんのセリフはこの状況を予言していたのであろうか。萱沼さんは再びしっかりとした足取りで歩き出した。彼の並々ならぬ決意を感じた岩澤は萱沼さんに肩を貸し、一緒に夜明けの海岸を目指す。ようやく海にたどり着き朝日を浴びる彼は海岸線を見つめながらその場でへたり込んでしまう。
ちょうどその頃、上園たちが海岸に到着する。土手を登って海を仰ぎ見るとそこには倒れ込んだ萱沼さんと無念な様子でしゃがみこむ岩澤の姿があった。萱沼さんは絶命し、妙子さんの元に旅立ったのだ。
再び冒頭の自主映画の撮影シーン。萱沼さんが作り得なかったあの映画を、チーム玉手匣の手で完成させるのだ。両角の演じる沙織が浜辺を歩いて行く。「はいカット!」の声でくるっと振り向く笑顔の沙織で作品は終わる。
感想
萱沼さんを導くため一瞬現れる押野さんの姿、美しい海辺の朝日に到達した達成感、倒れこむ萱沼さんの傍で項垂れる岩澤のシルエット。そして押野さんと萱沼さんを供養するための自主映画のレトロな画質。最後にこちらを振り向くモロちゃんの笑顔…。
あれ?、なんだかちょっと感動的だぞ?
感想まとめ
もうこれ心霊ドキュメンタリーじゃないよ。ちょっとした人間ドラマだよ。なに青春ストーリーみたいなの作ってんだよ、と思いつつも、エンディング後に訪れる爽快感というか、満足感というか、妙に爽やかな余韻に溢れていて、僕にとっては面白く良い作品でした。
だけど心霊的な神秘とか恐怖とか、僕も含めた「ほん呪」ファンが求めていたものとは全く毛色の異なるものであるとも感じました。「ちょっと期待していたものたは違うけど」、「面白いからいいじゃん」と許容できるか否かで評価が分かれる作品ではないかと思います。
各巻のエピソードの事象が繋がってきていますが、押切さんに乗り移ったあいつとか、そもそもその発端となった、終末の音とともに現れるラスボス的な何かが暗躍していそうで、謎解き的にはちょっと物足りなさを感じました。次巻に期待です。
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