はじめに
「放送局に届いたある映像」は、CSチャンネル「メ~テレNEXT(旧エンタメ~テレ)」で制作された、心霊ドキュメンタリー風のドラマ(モキュメンタリー)番組です。完全なフィクションであり、番組の最後にもその旨がしっかりと明示されています。
今回ご紹介するのは、その最終回。「Tape.9 色とりどりの世界」です。
今回は30分近くあり、一番の長尺です。
概要
取材班の前に現れたのは、ドキュメンタリー監督の松本郁美さん。彼女は、これまでこの番組が扱ってきた一連の映像の中に、見覚えのある人物がいるという。それは今から8年前の2018年、松本自身が撮影したある未公開映像の中にいた。
当時、松本は交通事故の被害者遺族を追うドキュメンタリーを制作していた。事件が起きたのは2016年3月10日、長野県某市遺愛町。当時10歳だった麦田沙羅(さら)さんという少女が、何者かの車に轢き逃げされ、命を落とした。警察の懸命な捜査にもかかわらず犯人は見つからず、駅前で情報提供を呼びかけるチラシを配り続ける母親の姿があった。母親の名は、麦田彩芽。
「なぜ、私が疑われなければいけないのか」──ネット上での根拠のない誹謗中傷により、当時は「犯人母親説」すら浮上していたという。カメラの前でやり場のない憤りと悔しさを涙ながらに訴えるその女性。彼女こそ、これまで映像会社の倉庫で「謎のVHSテープを発見した」として取材に協力していた、あの麦田だったのだ。
当時の取材で、麦田は「犯人は分かっている」と確信を込めて語っていた。犯人の名は「深津大貴」。当時大学生だった男で、事件直前に現場周辺を車でうろついていたこと、そして近所のファミレスで友人に「子供を轢いてしまった」と漏らしていたという情報を、麦田は独自に掴んでいた。だが、決定的な証拠がないために警察は動かず、彼女は深い怨念を募らせていた。
当時、監督の松本は麦田の主張を「遺族の思い込み」だと捉え、信じていなかった。むしろ本当に母親が犯人なのではないかとすら疑っていたという。しかし後日、番組内の深津大貴の「罪の告白的映像」を目にしたことで、彼女の訴えが真実だったと知り、戦慄した。なお、深津が起こした轢き逃げ事件は、今年でちょうど時効を迎える。松本は、深津が突然失踪した背景には、麦田が深く関わっているのではないかと睨んでいた。
麦田は深津の時効が成立する前に娘の復讐を果たすため、どこかで知り合った「音楽の家」出身の超能力者・藤堂栄一郎に依頼し、深津の元へ彼を差し向けたのではないか。そして同時に、あの施設に伝わる怪異の力で「娘の復活」をも目論んだのではないか……。だとすれば、深津の自宅アパートから響いていたという激しい言い争いの声は、他ならぬ麦田のものだったのではないか。伊藤は急ぎ麦田に連絡を試みるが、彼女はすでに会社を退職し、行方をくらませていた。
警察へ通報する前に事の真相を確かめるべく、岩澤と菊池は急遽、長野県にある麦田の実家へと向かう。しかし、家はすべてもぬけの殻だった。荒れた室内には、誰かが盗撮したと思しき麦田のインスタント写真が散乱しており、それらの写真からは明らかに尋常ではない不穏な空気が漂っていた。事態の深刻さを察した取材班は、ついに警察への通報を決意する。
そんな折、またしてもあの差出人不明の郵便物が届く。消印は埼玉県岩槻のようであった。中身は一本のDVDと、一枚の紙片。そこにはいつもの「放送してください」という言葉とともに、色とりどりの蛍光ペンで書き殴られた、暗号のような奇妙な文字列が遺されていた。
届いたDVDを再生すると、そこには赤いワンピースを纏い、椅子に腰かける麦田の姿が映し出されていた。
彼女はカメラに向かって、突然姿を消してしまったことへの謝罪を述べ、現在は「娘とともに、とある場所にいる」と静かに告げる。だが、その彼女の背後からは、不気味な「赤い女」の影が、じっとこちらを覗き込み消えた。また画面には時折画面に激しいノイズが走る。そして映像の最後、「へ、いいじゃん」という薄気味悪い呟きとともに、不敵に笑う藤堂栄一郎の顔がカメラを覗き込んできた。これまでの一連の郵便物を送りつけていた主犯は、やはり藤堂だったのか。
そもそも麦田は、制作会社の忘年会の席で、伊藤から「差出人不明の奇妙な映像が届いている」という話を偶然耳にしていた。その時、彼女は自分が裏で進めている復讐や「娘の復活」の計画がスタッフに露見する危険性を察知したのではないか。そのため、倉庫から「クレショフ効果」の映像をさも偶然見つけたように装い、取材班の目を逸らして時間稼ぎをしていた可能性が浮上する。
その後、麦田の身辺調査を進めるなかで、さらに驚愕の事実が判明する。
麦田の実の母親は、あの「音楽の家」の出身でありその園で職員として働いていた。そして、園長・神峰子が死亡したあの火災の際、麦田の母親も共に命を落としていたのだ。当時10歳だった孤児の麦田を引き取ったのが、母の同級生だった藤堂だった。つまり、かつて小泉のインタビュー音声に乱入し、家を追い出そうと声を荒らげていたあの高校生の正体は、若き日の麦田だったのだ。
──すべては「音楽の家」の血縁と洗脳で繋がっていた。
取材班は、一連の事件は藤堂と麦田による「共謀」であったという結論に達し、番組の構成を決定する。
だがその時、色とりどりの蛍光ペンで書かれた「暗号の紙片」を解析していた菊池が、ある恐るべき見解を示した。
暗号から「赤色」の文字だけを抜き出すと、そこには「みなさんおげんきですかわたしはげんきです」という、一見すると無害なメッセージが浮かび上がる。しかし、菊池は違和感を覚えた。「音楽の家」の異常な赤い装飾、藤堂が信号機の色の概念(赤信号の意味)を理解していなかったこと、そして映像の投稿が決まって赤い文字の「日曜日」であること……。
異常なまでに「赤」に執着する背景から、菊池は一つの仮説を立てる。
「藤堂には、青色が見えていないのではないか」
その仮説に基づき、藤堂には認識できていないであろう「青色(および緑色)」の文字だけを紙片から抜き出すと、そこには全く別の、言葉が隠されていた。
『たすけて つかまった むすめじゃない まっか ぐちゃぐちゃ とうした』
──助けて、捕まった。娘じゃない、真っ赤、ぐちゃぐちゃ、とうした。
これは、復讐の共謀者などではなく、藤堂の狂気に囚われ、肉体を「切除」されかけている麦田からの、本当のSOSだったのか。彼女がDVDで語った「娘とともにいる」という言葉の意味とは──。
自分たちは、決定的な見落としをしていたのではないか。スタッフはすべての映像を一から見直すことにする。画面には「調査を継続する」という重いテロップが流れ、ドキュメンタリーは不穏な余韻を残したまま幕を閉じる。
感想(ネタバレあるかも)
考察としてはどうなのか、自分でもよく分からないのですが……。
まず気になったのは、麦田さんの母親と藤堂が同級生で親しかったという点です。その縁で、火事で亡くなった女性の娘を引き取ったということですが……まさか麦田さんは、その女性と藤堂の間に生まれた実の娘、なんてことはありませんよね(ないかー)。
郵便物については、藤堂と麦田さんの共謀だったのでしょう。麦田さんは一時期、藤堂を煙たがって距離を置いていたようですが、娘をひき殺した深津への復讐、さらには娘を蘇らせるため、再び藤堂を頼ったのではないでしょうか。
しかし、復活したと思われた娘は無残な姿となり失敗。そもそも藤堂には麦田さんの娘を蘇らせる気などなく、神峰子復活の依り代として利用しただけだったのでしょうか。風呂場にあった不気味な写真も、娘を復活させるために実家へ隠していたものだったのでしょうか。
……あれ? そもそも引き取られた麦田さんの実家ってどこなのでしょう。藤堂の家なのか、それとも別の里親に預けられたのか。ともあれ、失敗した娘――「なんだか人の形をしたもの」を藤堂が回収しに来た、と考えることもできます。
残された写真の麦田さんは、驚いたような表情をしていましたよね。藤堂が来ることを予想していなかったのでしょうか。本当に何が何だか分かりません。
さらに、最後の映像では麦田さんは赤いワンピース姿でしたが、Tape.2では青いニットを着ていました。これは、当初は藤堂を拒絶していたことを示しているようにも見えます。……あれれ? また考察をやり直さなければいけませんね(笑)。
そもそも郵便物を送り付けるという行為自体、神峰子の存在を世間へ知らしめることが目的だったのでしょうか。そう考えると首謀者は藤堂ということになります。しかし、あの丸っこい宛名の字を藤堂が書いたとはどうにも思えないんですよね。
となると、麦田さんは最初から計画に関わっていたことになりますが、Tape.2では青いニット姿で藤堂を否定しているようにも見えます。このあたりは本当に分かりませんね(笑)。
最後の麦田さんの態度も気になります。暗号で助けを求めている割には穏やかで、終始にこやかな表情を浮かべているのが逆に不気味でした。これは、いわゆる「完全な人間」にされてしまった、ということなのでしょうか(それなら、もう手遅れじゃないですか……)。
いずれにしても、麦田さんは藤堂にまんまと利用されてしまったように思えます。
ところで、ピエロ大貴は結局どうなったのでしょう。神峰子復活の材料にされてしまったのでしょうか。もしそうなら、麦田さんの願いの一つは皮肉にも叶ってしまったことになります。
さて、一度死んだ命が蘇るというシチュエーションは、物語ではたいてい碌な結果になりません。
「お母さん、私、生き返っちゃった。てへ♥」
……などと娘が戻ってきても、普通の感覚では到底受け入れられるものではないでしょう。役所にはどう届け出るのでしょうか。「娘が復活しました。この場合、出生届ですかね?」などと聞きに行くのでしょうか(笑)。
仮に藤堂の思惑どおり神峰子が復活したとして、それはいったいどれほど悍ましい存在なのでしょう。怪獣のような姿(私の勝手な想像ですが)の神峰子を崇拝することになるのでしょうか。怖すぎます(笑)。
つまり、藤堂も麦田さんも、どこか常軌を逸している。その薄ら寒さを強く感じました。このあたりは、スティーヴン・キングの「ペット・セマタリー」や、ジェイコブズの「猿の手」をちょっと思い出しました。
あの紙片の「とうした」という文字も謎ですね。番組内では地名か?と言ってましたけど、一応、仏教における天界の一つに「兜率天(とそつてん)」があり、そのサンスクリット語読みが「トゥシタ」らしいのですが、関係があるのでしょうか(Wikipedia調べ)。だとするともう…。
赤いフィルター越しに映像を見ると何かが現れる、という仕掛けは当初から予想していました。実際にダイソーで赤い透明下敷き(税込110円)まで買って試してみたのですが、正直よく分かりませんでした(笑)。
それでも、何となく顔のようなものは見えます。男性が二人現れるようにも見えました。行方不明になっている男性が二人……と言われると、それと関係があるような気もしますが、確信はありません。
ちなみにタイトルは、赤いフィルターを通すと「放送局に届いたあかい映像」と読めるようになりますが、ちょっと疑問なのが「青が見えない」と言うのが黒く見えるのか、白く見えるのかと言う点。通常、「見えない→光のエネルギーを感じない→黒く見える」だと思うんですけど、Tape.1のタイトルサムネは白背景なので、「る」の青い文字が赤フィルター越しでも見えちゃうじゃん、と思いました。私のブログのアイキャッチ画像をTape.5から黒背景にしたのはそれに気が付いたからです(笑)。
謎は謎のまま残し、考察要素をこれでもかと盛り込んだ作品で、とても楽しめました。ただ、少し難易度が高い印象も受けました。単に私の読解力が追いついていないだけかもしれませんが(笑)。
放送版を観れば、いくつか判明することもあるのでしょうか。コメント欄で「スカパー!に加入しなくても、Amazonプライムのメ~テレチャンネルをお試し期間で視聴できる」という情報を教えていただいたので、放送版を観て何か新たな発見があれば追記したいと思っています。もっとも、お試し期間は一週間しかないので、その点は注意が必要ですね。
とにかく、徐々に不気味さが際立っていく構成は見応えがありました。現代的な要素を取り入れつつも、岩澤さん・菊池さんコンビらしい往年の「ほん呪」の空気もきちんと感じられ、とても面白かったです。
「クニコから始まる話」のときにも感じましたが、岩澤さんは時代の流れに合わせた新しい要素を作品へ取り入れるのが本当に上手ですね。
なかなか忙しく、思うように追えていなかったのですが、岩澤さんのほかの作品も改めて観ていきたいと思いました。
あ、そういえば、麦田さんの娘さんが事故に遭った街の名前は「遺愛町」でしたね。この街は「心霊玉手匣 constellation」でも舞台となった架空の街ですが、その名前を見つけたときは、思わず少し心が躍ってしまいました。
最後に、Youtubeではおまけ映像として、本編では未使用のピエロ大貴が配信した映像が公開されています。これ一見単なる雑談なのですが、画面の隅にちょっとしたものが写っています。私は全く見つけることができなくて「なんだこれ」と思っていたのですが、動画コメント欄を見て確認できました。いや凄いな考察班。
それでは。
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